インベージョン

インベージョン見ました

「インベージョン」は、ジャック・フィニィのクラシックSF「盗まれた街」 (映画名「ボディ・スナッチャー (Invasion of the Body Snatchers)」) の4度目の映像化。過去にはドン・シーゲルとフィリップ・カウフマンが1956年および78年に、93年にアベル・フェラーラが映像化しています。オスカー女優ニコール・キッドマン主演で贈るSFアクションスリラー。上映時間は1時間39分と短いのですが、話の展開や妙に間延びするようなシーンも無く、最初を除いてはずっとドキドキハラハラと追い詰められる緊張のあるシーンの連続だったこともあり、とても印象に残る映画です。

あらすじ

ある日スペースシャトルの謎の衝突事故が起き、残骸がワシントンDC近郊に落ちる。なんとそれには地球外生命体が付着していた。やがて間もなく、感情を失ったように人間の行動を変質させる謎の伝染病が発生する。精神分析医のキャロルは、友人の医師ベンと共に、この病原体が地球上のものではないことを突き止める。それに感染した者はレム睡眠時にその未知の生命体に襲われ、体を乗っ取られてしまうのだ。「彼ら」は仲間をどんどん増やしていき、人間達は彼らに体を盗まれまいと逃げ惑う。感染を止める方法はあるのだろうか?未知の生命体を退治する方法が見つかるまで、人間にできることは「眠らない」ということ。さらに、最愛の息子オリバーのの行方は分からなくなってしまっていた。しかし、このオリバーがウィルスの拡大を阻止する鍵を握っていることも分かった。オリバーを救い出し、ウイルスを退治することは出来るのか・・・?

主役

インベージョンには引き込まれて目が離せない面白さがあります。精神科医で美しく、強い母親はニコール・キッドマン。同じ、いなくなった息子を探すなら、『フライトプラン』のジョディ・フォースターも負けていませんが、ニコールには、なりふり構わず躍起になってかけずり回るのでは無く、どこまでも神秘的な強さ。『アザーズ』などで魅せ付けた静かな演技力が光るニコールキッドマンの演技は素晴らしく、サスペンス向きの女優だと改めて感じました。対する、ダニエル・クレイグ。ニコールを愛し、守ろうとする医者。ジェームスボンドのイメージは全く消し去り、善良な一市民。こんなダニエルも魅力的です。

解説

「ボディ・スナッチャーズ」、すなわちジャック・フィニィの『盗まれた街』を、『es』『ヒトラー 最後の12日間』のオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督が映画化したのがこのインベージョンです。非人間性が人間を乗っ取るという原作のテーマと、環境が人間に与える影響を描きつづけたヒルシュビーゲル監督の作家性が見事にマッチしており、リアルな描写とこの作品の普遍的なテーマによって、現実の私たちに非人間性の危機を突きつけます。知らず知らずのうちに自我を乗っ取るウィルスの危機は、心ないものにあふれた現実に生きているわたしたちが現に置かれている自我の危機を見事に表象しているのです。

表情

身体をのっとられた人々は感情の起伏が平板になり、顔から表情がなくなります。人が何ものかにのっとられ始めたことに気づいた人々は、町を歩く時はできるだけ気持ちを表に現さないようにします。本当なら叫んで駆け出したいところを、それをやるとまだのっとられていないことがバレるので、内心の恐怖と葛藤しながら、できるだけ平然を装ってその場を去るのです。その時のキッドマンの微妙な表情。地下鉄で会った面識のない赤の他人から、表情を表に出すんじゃない、とわざわざ釘まで刺される始末。これはまさにキッドマンのための映画だと感じました。思うに、キッドマンはかなり成功作と失敗作の差が大きいとはいえ、自分に合う作品を選ぶという才能に恵まれているのではないでしょうか。

ゾンビ

インベージョンの「彼ら」は、いわゆる「ゾンビ」なのですが、一般的な「ゾンビ」とは違い、人間的な綺麗なゾンビです。ちょっと怖いのは、ゲロを吐きかけたり、飲み物にゲロを混ぜたりして感染を拡大させようとすることでしょうか。しかし、彼らはまったく常人と力は変わらず、しかも極端に戦闘を嫌います。ただ、無慈悲な面を持っているので、感染しないと分かった個体に対しては、躊躇なく排除しようとするのです。興味深いのは、主役を含む感染していない人間が無精ひげをはやして感情豊かに振舞うのに対し、彼らは完璧までに無表情で綺麗な顔をして表情を変えないこと。服装はそろってダークグレーのスーツや黒っぽい衣装などを身にまとい、街も色あせて表現されています。皮肉なことに、TVでは北朝鮮の核放棄や、イラク問題の解決、軍事予算の縮小とエイズ特効薬の全世界への無料配布が報じられています。つまり、世界は平和に向かっているというわけなんです。

監督

今回、この作品を監督したのは『es』や『ヒトラー/最後の12日間』のオリヴァー・ヒルシュビーゲルです。彼の今までの作品からは、彼の関心が「人間を取り巻く環境の影響と、その中で個人がどう行動するか」ということにあると読み取れます。『es』では囚人と看守の役割を割り振った監獄実験によって普通の人々があまりにも簡単に環境の影響に支配されてしまう恐ろしさを描き、『ヒトラー~』では第三帝国というひとつの世界の終りをナチスの人々がどう迎えるかを描いてきたヒルシュビーゲル監督。今回は人間の自我を奪い取ってその人になり変る「ボディ・スナッチャー」の恐怖のなかにおかれた人々を描くことで、個としての自我を奪われるとき人がどう行動するかを示して見せます。

メッセージ

作品の中でロシア人の老紳士が、アメリカ人のことを理解できないとキャロルに告げます。この国においては自分が病人であり、それは治療できるものなのかと問いかけます。また、戦争や様々な虐殺行為がこの世界から消えた時、人類は人類でなくなってしまっているのでは、とも。恐らく、「悪を駆逐する」、すなわち、自分の敵対者を排除して自分の幸せを勝ち得ようとする行動は、人類の繁栄において必要だったのだと思います。そうでなければ、強い遺伝子が残っていかない。でも、今の我々は戦争行為が憎むべきものであることを知っています。それは我々が社会的生活を営んでいることの表れでもありますね。

キャスト

  • キャロル:ニコール・キッドマン
  • ベン:ダニエル・クレイグ
  • タッカ:ジェレミー・ノーザム
  • ガレアノ医師:ジェフリー・ライト
  • オリバー:ジャクソン・ボンド

スタッフ

  • 監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル
  • 脚本:デイビッド・カジャニック
  • 製作総指揮:ロイ・リー、スーザン・ダウニー、スティーヴ・リチャーズ、ロナルド・G・スミス、ブルース・バーマン
  • 製作:ジョエル・シルヴァー、ダグ・デイヴィソン
  • 撮影:ライナー・クラウスマン
  • 美術:ジャック・フィスク
  • 音楽:ジョン・オットマン
  • 編集:ハンス・ファンク、ジョエル・ネグロン
  • 衣裳:ジャクリーン・ウェスト

にこーるきっどまん